現役高校生が語るスポーツハラスメントの現実 ~葛藤を学びに変えて~

スポーツハラスメント検定初級の合格者で、サッカー部に所属する現役高校3年生・井上翔太さん(仮名)。幼い頃からサッカーに打ち込んできた一方で、在籍していたチームでは、学業との両立をめぐって深刻なスポーツハラスメントを受けたといいます。 被害をきっかけにスポーツハラスメントについて知ろうと「スポーツハラスメント検定初級」を受検。将来は法学を学び、スポーツ界で苦しむ選手たちが相談できる環境づくりにも関わりたいと考えています。今回は井上さんに受検した理由や検定での気づき、そして将来の夢について伺いました。

Jクラブユースを退団し、現在は高校サッカー部でプレーする井上翔太さん(写真:本人提供)

「勉強とサッカーの両立」を否定されて

井上さんがサッカーを始めたのは幼少期。スクールへ電車で通う日々を続けながら、競技を生活の中心に置いてきました。中学進学後はJクラブのユースにスカウトされ、高校でも競技を続けてきました

 

一方で、井上さんは勉強にも力を入れていました。競技だけではなく、学業にも全力で向き合う。その姿勢が、ある時からチーム内で否定的に受け止められるようになります。

 

「勉強をやりすぎていないか」「勉強の方に意識が向いているように見える」。そんな言葉をスタッフから向けられるようになったといいます。井上さんは「自分の生き方そのものを否定されているように感じた」と振り返ります。

 

最終的に井上さんは、文武両道が実践できる環境を求めてチームの移籍を決意します。しかし、その過程においても、監督にグラウンドで長時間にわたって怒鳴られるハラスメントを受けたといいます。

 

小学校時代の井上さん。幼少期からサッカーひと筋だった。(写真:本人提供)

支えになったのは家族の存在

井上さんは、監督やスタッフから言われたこと、感じたことを、家ではその都度きちんと話すことができたそうです。そこで両親から「大人の言うことは聞くものだ」「昔は当たり前だった」などと突き放されることはなかったといいます。

 

自分の感じた苦しさを否定されずに受け止めてもらえたことが、孤立を防ぎ、大きな支えになりました。

 

「一人で抱え込んでいたら、キツかったと思います」

 

そんな井上さんの言葉からは、被害そのものだけでなく、「安心して本音を話せる場所」がどれほど重要かが伝わってきます。

スポーツハラスメント検定で得た「知識」と「勇気」

スポーツハラスメントの被害を受けた井上さんは、「そもそもハラスメントとは何か」を自分で学び直そうと考えました。そこで出会ったのが、スポーツハラスメントZERO協会とスポーツハラスメント検定初級でした。

 

受検を通じて特に印象に残ったのは、「人権」と「思いやり」は違う、という視点だったといいます。

 

好きな選手には優しく、嫌いな選手には厳しく接する。競技の現場では、そうした態度の差を「仕方のないこと」と受け止めてしまいがちです。しかし本来、人権とは感情によって左右されるものではなく、誰もが等しく持っている権利です。井上さんは、検定の学びを通して、その当たり前のことを改めて深く考えるようになったと話します。

 

また、「指導者や上級生には絶対服従」という空気が、人権の尊重されていない部活動の特徴として明確に示されていたことも印象的だったそうです。

 

学生の頃からそうした環境しか知らなければ、それが普通だと思ってしまう。だからこそ、学ぶことで「それは普通ではない」と知ることが大切だと実感しました。

 

もう一つ、大きな気づきとなったのが「バイスタンダー(傍観者)」の存在です。明らかにおかしい言動があっても、誰も止めない。見て見ぬふりをする。そうした空気もまた、ハラスメントを温存してしまう要因の一つです。

 

ただ一方で、現場で直接声を上げることの難しさも、井上さんは身をもって知っています。だからこそ、注意をそらす、第三者に助けを求める、証拠を残す、あとから相談する――そんな行動もまた大切なのだと、検定を通じて受け止めることができたといいます。

 

受検後は、日常の言葉選びにも変化があったそうです。

 

「一つひとつの発言に、少し責任を持つようになりました」

 

相手がどう受け取るかを以前より考えるようになった。それもまた、検定がもたらした変化でした。

 

現在も高校サッカー部で競技を続けている。(写真:本人提供)

弁護士になって、相談できる窓口をつくりたい

井上さんは将来、法学を学び、弁護士を目指したいと考えています。もちろん競技も続けたい。できれば大学でもサッカーを続け、その先も目指したい。その思いと並行して、スポーツ界の中で起きるハラスメントの構造そのものを変えていきたいと考えています。

 

背景には、自身の経験があります。

 

チームには相談窓口がありました。しかし、その窓口を「安心して使える」とは感じられなかった。結局、情報が内部の近いところに届いてしまうのではないか――。そんな不信感が拭えなかったといいます。

 

制度として窓口が存在していても、相談する側が安心できなければ、実際には機能しません。

 

だからこそ井上さんは、もっと気軽に、もっと安心して相談できる場所が必要だと考えています。そうした窓口づくりに、自分も将来関わっていきたい――その思いは明確です。

 

苦しい経験を経て、それでもスポーツそのものを手放さず、次は自分が支える側に回りたいと考える――。その姿勢には、本当の強さがあります。

 

インタビューの最後、同じように「自分の受けたことは何だったのか」と悩んでいる人たちへ向けて、井上さんはこう話してくれました。

 

「ハラスメントは、思っているより身近にあることなんだと自覚しました。日頃の生活でも少し気を配るというか、ハラスメントに対する意識を、ちょっとでも向けてくれたらと思います」

 

被害を受けた経験を、学びへ、行動へ、そしてこれからの志へとつなげていく。井上さんの歩みは、スポーツの現場を変えていくための希望でもあります。

 

スポーツハラスメント検定初級 受検要項・お申込みはこちら

https://supoharazero.org/requirements/

取材・執筆:一般社団法人スポーツハラスメントZERO協会