「親子宣誓」した女の子が初めて勝った日。 空手団体代表・長谷川允也さん【受検者インタビュー】

スポーツハラスメント検定初級の合格者で、空手団体「カラテ・スポーツ・エデュケーション・リーグ」の代表を務める長谷川允也(みつや)さん。 コロナ禍での自省を経て指導方針を一変させ、主催する東海地区最大規模の空手大会をすべてリーグ戦へ移行させた改革者です。 そんな長谷川さんに、「スポーツハラスメント検定初級」を受検した理由、そして「一度も勝てなかった女の子が初めて勝った日」のお話を伺いました。

空手団体「カラテ・スポーツ・エデュケーション・リーグ」の代表を務める長谷川允也(みつや)さん。(以下写真提供:長谷川允也さん)

 

「子どものために」と言いながら

小学校から高校までは剣道に打ち込んでいた長谷川さん。27歳から始めた空手の指導を始めたのは38歳のとき。当時は自身の経験だけに基づいた指導で、子どもたちと向き合っていたといいます。

 

「試合の勝ち負けで怒ったことはないんですが、大きな大会が近づいてくると、私もピリピリしていて、練習であまり熱心じゃない子に対してきつい言葉もぶつけていました」

 

転機は2020年に始まったコロナ禍。すべての活動が止まり、初めてゆっくりと自分の指導・現状を振り返りました。

空手で日本一になった子たちが、中学に入ると「辞めます」と去っていく……。その一方で、追い込まずに楽しく空手をやってきた子たちは、20代になった今も道場に通い続けている……。

「みんな『子どもたちのために』と言うんです。私も言っていました。でも、自分の指導を本気で振り返ったとき『その子たちが強くなることで喜んでいるのは自分じゃないか?』と思ったんです。結局、『子どもたちのために』を口実にして、自分のためにやっていることに気づきました」

長谷川さんは指導を一変させました。基準は「子どもが楽しんでいるか」。長かった練習時間を短くし、中学生以上には練習メニューを自分たちで考えさせ、自らはサポートに回りました。方針変更後、一時的に多くの生徒が辞めましたが、競技の継続率は向上。新しい世代から全国大会で初出場・初優勝(小学生日本一)を果たす子も現れました。

「無理をさせなくても結果は出る、ということを証明できたと思います」

 

スポハラ検定初級が教えてくれたこと


 

長谷川さんがスポーツハラスメント検定初級(スポハラ初級)を受検したのは2025年。自らの指導を変えた後のことでした。それでも、この検定には意味があったといいます。

「再確認できたことが大きいですね。理論的に整理されているので、自分の中に落とし込むことができました。私は怒りん坊なんですが、検定を受検後、怒りそうになったら”後ろを向いて深呼吸する”というそれまで行動を改めて意識するようになりました」

怒りという感情は、人間が持つ自然な感情の一つです。ただ、その怒りを相手にストレートにぶつけてしまうと相手を傷つけ、社会的信用が失墜してしまう事態にもなりえます。

そうしたスポーツハラスメントにまつわる現実を「検定という形で理解・確認している」のとでは、その状況での踏ん張り方が変わります。長谷川さんが検定を勧める理由は、この点にあります。

「また崩れそうになったときの歯止めになります。検定を受けることで、失敗しても戻ってこられる可能性が高くなると思います」

検定をきっかけに他の指導者との会話も生まれたといいます。知り合いのフットサルスクールの指導者に初級検定資料を見せたところ「これはいいですね」と評価され、コーチ全員に勧めたいという話にもなりました。自分が学ぶことで周囲に影響を与えるきっかけになります。

 

涙が滲んだ開会式。親子宣誓と、人生初の一勝

長谷川さんが主催するリーグ戦の開会式には、珍しい光景があります。「親子宣誓」です。子ども(選手)とその保護者が一緒に立ち、宣誓をするのです。

あるリーグ戦の大会で、一組の親子が宣誓しました。その女の子は、それまでのリーグ戦で一度も勝ったことがありませんでした。

「その親子宣誓で、『私たちは1回も勝ったことないです。でも諦めずに挑戦させてくれる場がある』と言ってくれて、こちらも聞きながら涙が出てきて。それは開会式だからみんな聞いているんです。だから、その女の子が試合に出ると『宣誓したあの子だね』と、みんなが自然と注目するわけです」

その子が試合に出るとき、会場の多くが彼女の試合を見守っていました。また負けてしまった。それでも、大人たちの視線は優しかったといいます。そして——その日の最後の試合で、彼女は人生で初めて勝ちました。

「その子が初めて勝った試合を見て、私は涙目で、他の先生たちも目がうるうるしていて(笑)。もう、その感動が会場中に伝播して、会場が“あったかい空気”に包まれていたんです」

大会で「親子宣誓」をした後、初めて勝った北辰会館の石濱未央さん(左)、保護者で父の石濱真吾さん(右)

 

 

これとは別に、20回近く試合に出場しながら一度も勝てなかった男の子もいました。しかしリーグ戦で3連敗後の4試合目。毎回戦い方を変えながら、考え続けた末、最後の試合で人生初勝利を掴みました。その子の保護者は号泣。その後、本人は次の練習のときに「俺は勝った!」と誇らしげだったといいます。

「初めて勝った子の自信の付き方といったら、日本一になったんじゃないかというくらいで。その子とその家族にとっては、日本一と同じくらいの価値があったのだと思います」

「怒るより、笑顔でいる方がいい」

 

長谷川さんは800人規模で行っていた東海地区のトーナメント大会を、2024年からすべてリーグ戦へ移行しました。それでも参加者は600人弱と想定よりも減らず、むしろ参加団体は増加。

リーグ戦への参加申込には「勝敗だけにこだわる方はご遠慮ください」と明記。それでも人は集まるそうで、他地域からの問い合わせも増え、「見学させてください」「話を聞かせてください」という声が届くようになりました。

長谷川さんが代表を務める空手団体のリーグ戦大会。以前は“負けたら終わり”のトーナメント戦だった

 

「時代は少しずつ変わっていると感じています。主催者側が安心・安全な方針を示すことで、『この大会なら子どもを参加させてもいい』と思える家庭が増えたと感じています」

インタビューの最後に、変わる前と変わった後、どちらが幸せかをうかがいました。

「今の方が幸せです。誰だってずっと怒ってプンプンしているのは嫌だと思うんです」

「指導者がニコニコしていれば、子どもも当然ニコニコします。『安心・安全』を担保にすれば子どもたちは伸び伸びするので、そんな子どもたちの顔を見ていたら嬉しいですよね」

 

 

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https://supoharazero.org/requirements/

取材・執筆:一般社団法人スポーツハラスメントZERO協会